私が喫茶葦島を開業しようと考えた動機の一つは、ほんのひとときでも、安心して寛げる空間で、好みの味の珈琲を楽しめたら、その1日はおそらく充実したものになるだろう、そのような場所を自ら作りたい、というものでした。
そこで「時間を紡ぐ珈琲」というコンセプトを考え、理想の喫茶店をイメージしました。
都会の喧騒を忘れさせるビル最上階という設定も、広めのカウンターも、ゆったりと座れるソファーも、存在感はないけど上質な音を奏でるオーディオも、全てそのコンセプトを具現化するために設えたものです。
そして、そのような場所で提供する珈琲はどうあるべきかを一から考えました。
お客様の好みの珈琲を常に追求しながら、提供し続けることを考えれば、まずは自家焙煎であるべきだろう。
使用する生豆は、スペシャルティ珈琲を中心に、高品質で美味な優良豆を揃えよう。
珈琲の香味を最後に左右する抽出方法は、緻密に味を調整するのに最適なハンドドリップに拘ろう。
そのような選択の仕方で、じっくりゆっくりと準備を重ねた記憶があります。実際、物件を借りて工事を済ませ開業するまで、半年以上の期間を費やしました。
とりわけ店の工事が終わり、開業までの1ヶ月半は、焙煎とドリップの繰り返しの日々。早朝から晩まで私以外は誰もいない店で、ひたすら焙煎と珈琲抽出の日々でした。
そうやってメニューとして提供する珈琲の味を、検証を重ねながらじっくりと決めていけたことが、後々活かせられたかなと今は思います。
それは、仕入れた珈琲豆ごとの香味の特徴をとことん知ることが出来たからですが、いずれ始めることになる焙煎豆の販売専門店に必要な知識や技術を蓄えることにも繋がったからです。
暗黙知研修と題して、バリスタになるための研修制度を実現できたのも、その時の経験と知識が基になっています。
今思えば、ということは確かにあります。それは、正直先は見えなくて不安だらけだったけど、夢とコンセプトを頼りにがむしゃらに働いていたなあ、という感慨ですね。
これからも、10年先、20年先に「今思えば。。。」と感慨深く思い返せられるよう、日々を丁寧に積み重ねていきたいものです。
店主