当店のハンドドリップによる珈琲抽出方法は独自のものです。
その独特な方法を、開業以来延べ20名のバリスタ職を育てて技術を伝授し、今も継承しております。
ご存知の通りハンドドリップという抽出方法は、極めて属人的な技術でありますから、当店の商品として提供できる香味レベルを、すべてのバリスタにおいて一定とさせることは至難のことではあります。
しかし、プロである以上はできる限り安定して店の味を再現するようにしなければなりません。開業当時はバリスタ職は私一人でしたが、年を重ねていくにつれ店の規模を拡大させていく必要に迫られるようになると、この技術をいかに後進の者に伝えて安定した技能を定着させるかということが、必須の課題となってまいりました。
そこで私は、その課題を解決するために、当店の独特なハンドドリップ法をいかにして理論化し言語化して伝えていくかを考え、具体的に指導方法を考案検証し体系化していきました。
ハンドドリップによる珈琲抽出の良い点は、香味の調整を人の手によって繊細に行えることです。このことは反面、技術の習得においては困難な面が多いことをあらわします。
すなわち、ケトルを操って細口から注がれる湯をいかに有効に珈琲に当てるかという技術的な点について、ある程度は理論的に説明できるものの、多くの部分において微妙な腕使いや手首のスナップによる個人差が必ず影響するため、肝心な点については言語などの形式知だけでは説明しきれないからです。
その困難な点を克服するために考えたのが、「葦島暗黙知研修」です。この研修の特徴は、理論的な形式知を土台にしながら、言語化できないコツのような技能部分を伝える点にあります。
研修期間に確たる定めはなく、原則修了するまで行いますが、その期間は人によって変わります。一ヶ月程度で修了する者から六ヶ月近くかかる者まで様々です。
やはり暗黙知らしい属人的な分野である所以でもあるかなと思います。
その暗黙知と形式知のバランスを意識して練度を上げていく過程が、当社の理念に据えている「調和」「中庸」の精神を醸成していると考えています。