現場主義

 喫茶葦島は創業からの数年間、店主である私が”バリスタ”として毎日珈琲をハンドドリップしておりました。それが今やバリスタスタッフも9名と増え、以前のように一日中私が自ら珈琲を淹れることはなくなりましたが、それでも毎日数時間は立つようにしています。

 それだけスタッフがいれば、オーナー自ら現場に立たなくても、完全に任せてしまえばもっと楽できるじゃないかと言われることもございます。

 でも、どんなに会社が大きくなっても、私が現場から完全に退くことはありません。よほど周囲からの反対がない限り、体力が続く限りは、仮に将来代表を退いたとしても、現場に立つ時間を確保していきたいと考えています。

 その理由は大きく三つございます。

 一つ目は、自分が理想とする経営理念として「現場主義」を掲げているからです。これは私の研究テーマでもある「永続する企業の条件」において重要なポイントの一つでもあります。

 二つ目は、技術の伝承のためには、指導者自らが継続的に現場に立つことが必須だと考えるからです。これは自分自身の技術に磨きをかけ続けることと、日々精進することによって得た技術向上の成果を後進の者に直接に適宜伝えやすい利点があります。

 三つ目は、全く個人的な理由ですみませんが、私自身が一人の”実践型珈琲オタク”であるからです。あえて実践と書くのも、自ら考案した焙煎方法とハンドドリップの手法を、日々現場で実際にお客様に提供することで、サービスを没入的に究めていくのが自分のライフワークと捉えているからです。

 喫茶店やカフェの現場はまさに生き物です。ご来店くださるお客様は老若男女さまざまですし、営業時間中には色々なことが起こります。かなり予見不可能なサービス業と言えるでしょう。そのような業務マニュアルだけでは対応しきれないことが多いのがこの仕事の難しさでありますし、逆に魅力的な面でもあります。

 経営は大局的な視点で仕事をみることが大切ですが、細部の仕事にも同時に目を行き届かせる必要があります。そのバランスをいかに維持していくのかが問題ですね。

 トップ自らが現場にいてこそわかることは多いので、そのための時間はできる限り確保したいと考えております。「細部にこそ神宿る」であり「現場にこそ神おわす」です。

 そんなわけで今日も数時間ですがカウンターに立ちます。

  店主