接客における最適解を求めて

~マニュアル主義に陥らないために~

当店のようなフルサービスを採用している喫茶店において、できる限り多くのお客様にご満足いただけるような接客を行うには、決してマニュアル主義であってはならないと常々考えています。

とは言いましても、当店にはちゃんとした業務マニュアルがあります。

それも体系的かつ網羅的で非常に詳細な内容のものです。

マニュアルは存在するが、マニュアル主義を否定するとはこれ如何に?

ですが、それも当店がマニュアル以上に大切にしていることがあるからです。

それは「会社が定めた理念の趣旨を正しく解釈し、主体的に行動すること」という考え方です。

ちなみに当社の理念の中には「調和」と「中庸」という概念があります。

その趣旨は「過不足なく整った、良心と良識に基づいた行いのためのフィロソフィー」と考えています。

すなわち、それら理念の趣旨を正しく解釈した行動であれば、たとえマニュアルで定められていないことであったり、記載されていることに反するようなことであっても、間違いと見なされることはありません。

確かに、マニュアルがきちんと整っていれば、大体の仕事はそれなりにこなせるはずです。

品質レベルを標準以上に保つためにも必要と考えます。

しかし、喫茶店やカフェに来店されるお客様は実に様々、老若男女を問わず多種多様です。

接客上、求められるものも多種多様、マニュアル通りにいかないことは日常茶飯事と言えます。

だからこそ、その場に応じた臨機応変な対応ができる人材をいかに育てるかが重要ですし、そのためにマニュアルを超えた上位概念としての理念があるわけです。

そこで正しく理念を解釈できるかどうかがポイントですが、これが大変難しい。

常日頃意識しながら、考えながら、腑に落ちるまで努力を重ねていくことでしょう。

もっとも、まずは可能かどうかよりも、それを難しいと思うかどうかですね。答えの簡単に見つからない問題を解くことに楽しみを感じるくらいの好奇心があればと思います。困難なことにも前向きに、建設的態度で臨むくらいのバイタリティがある人を育てたいと常々考えています。

接客における最適解は本当に難しいです。

しかし、難問であるからこそ挑戦のしがいがあるというものです。

そのような難問を今、共に解いてくれようとしている仲間たちには日頃感謝しています。

店主

喫茶葦島のバリアフリー等について

 当店には普段より様々なお客様にお越しいただいておりますが、全てのお客様にご満足いただけるよう、店としてできる限りのおもてなしを心がけております。

 とりわけお子様連れや、海外からのお客様、車椅子等のお客様などのために、下記のようなサービスを用意して、安心してお越しいただけるよう努めております。

 どうぞお気軽にスタッフへお申し付け下さい。

お子様・お子様用食器のご用意
・粉ミルク用お湯のご用意
・ベビーカーでのご入店
外国語メニュー・英語(English Menu)
・多言語(Multi-language Menu)

バリアフリー・車椅子スロープ
・コミュニケーションボード(日本語・英語)
・筆談
アレルギー・その他食品・アレルギー対応表のご用意
・必要な方への原材料名の開示 (未加熱ナチュラルチーズやハチミツ等の使用の有無など)
補助犬盲導犬・介助犬・聴導犬と一緒にご来店いただけます

車椅子スロープ

当店独自のコミュニケーションボードもございます

お子様用食器

10/17に新店をオープンいたします

今秋、京都高島屋SC新館「T8」(10月17日にグランドオープン)の4Fにカフェとして出店いたします。席数約30席、本店「喫茶葦島」と同様のサービスを提供予定です。

まず高島屋新館「T8」についてのご紹介です。

<高島屋新館「T8」のコンセプト>  
 何となく足を運んでしまう場所“四条河原町”。仲間や家族、そして一人でも…。「人」「コト」「モノ」。出“あう”こと、出“あい”に行くことが楽しい場所“四条河原町”。
 「 T8 」は、街を行き交う全ての人に「楽しく」「気軽に」ご利用いただける施設をめざします。また、「アート&カルチャーを発信する館」として現代アートや日本が世界に誇るサブカルチャー、エンターテインメントのトップランナーが4~7Fに集結。
 百貨店と専門店ゾーン全体で、街のアンカーとして、「京都で一番の待ち合わせ場所」をめざします。

*高島屋プレスリリースより抜粋

そして、アート&カルチャーを発信するエリアである4Fについても下記のようにリリースされました。

<4Fのコンセプトと出店紹介>
 趣味のあう仲間(同好の士)と“あう”“あい”に行く
 日本のアニメ、マンガ業界を牽引するプロたちが買取、販売を行う「まんだらけ京都店」の他、三条河原町に本店を構え、京都の珈琲好きからも絶大な支持を得る自家焙煎珈琲の喫茶店「葦島珈琲」(商業施設初出店)や、渋谷のレコード文化を支えてきた老舗レコード店「フェイスレコード」(関西初出店)、厳選された作家のアートピースやコラボアイテム等アートとであう体験が出来る「ヌーヌKYOTO」(新業態)など、好きなモノに向き合う時間が楽しい6店舗が出店。

*高島屋プレスリリースより抜粋

詳細は下記のニュースリソースをご覧ください。
https://www.takashimaya.co.jp/base/corp/topics/230414f.pdf

アート、アナログレコード、サブカルチャー、そしてハンドドリップ珈琲などなど、いずれも日本の文化を牽引してきた「人・もの・コト」を愛でられる、ある意味カオスなフロアです。

そのフロアで、私たち「葦島珈琲」は、同好の士たちが心地よく出会える場所とサービスを、長年培ってきた手仕事珈琲でおもてなしいたします。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

暗黙知と形式知の調和によるハンドドリップ

 当店のハンドドリップによる珈琲抽出方法は独自のものです。

 その独特な方法を、開業以来延べ20名のバリスタ職を育てて技術を伝授し、今も継承しております。

 ご存知の通りハンドドリップという抽出方法は、極めて属人的な技術でありますから、当店の商品として提供できる香味レベルを、すべてのバリスタにおいて一定とさせることは至難のことではあります。

 しかし、プロである以上はできる限り安定して店の味を再現するようにしなければなりません。開業当時はバリスタ職は私一人でしたが、年を重ねていくにつれ店の規模を拡大させていく必要に迫られるようになると、この技術をいかに後進の者に伝えて安定した技能を定着させるかということが、必須の課題となってまいりました。

 そこで私は、その課題を解決するために、当店の独特なハンドドリップ法をいかにして理論化し言語化して伝えていくかを考え、具体的に指導方法を考案検証し体系化していきました。

 ハンドドリップによる珈琲抽出の良い点は、香味の調整を人の手によって繊細に行えることです。このことは反面、技術の習得においては困難な面が多いことをあらわします。

 すなわち、ケトルを操って細口から注がれる湯をいかに有効に珈琲に当てるかという技術的な点について、ある程度は理論的に説明できるものの、多くの部分において微妙な腕使いや手首のスナップによる個人差が必ず影響するため、肝心な点については言語などの形式知だけでは説明しきれないからです。

 その困難な点を克服するために考えたのが、「葦島暗黙知研修」です。この研修の特徴は、理論的な形式知を土台にしながら、言語化できないコツのような技能部分を伝える点にあります。

 研修期間に確たる定めはなく、原則修了するまで行いますが、その期間は人によって変わります。一ヶ月程度で修了する者から六ヶ月近くかかる者まで様々です。

 やはり暗黙知らしい属人的な分野である所以でもあるかなと思います。

 その暗黙知と形式知のバランスを意識して練度を上げていく過程が、当社の理念に据えている「調和」「中庸」の精神を醸成していると考えています。

謹賀新年

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

喫茶葦島は今年13周年、自家焙煎所葦島は5周年を迎えます。

これまでの皆様からのご愛顧に深く感謝申し上げます。

そして10月には新店の葦島珈琲を市内に開業いたします。

こちらは本店の喫茶葦島と同様のコンセプト、規模もほぼ同じ喫茶店となります。

詳細は4月にリリースできるかと存じます。

一般的に「一年の計は元旦にあり」と言われております。

この日は何かしら新たな方針や計画を立てるべきかと思いますが、私どもは今まで大切にしてきた理念を守ることを念頭にあえて変わることなく、それに磨きをかけるように、技能やサービスを日々向上させていくことに尽力していきたいと考えております。

新しいサービスや商品の開発も、あくまで理念を守り続けるための一方策です。

今年も積極的に弊社独自の良さと強みを追求していきます。

引き続きましてよろしくお頼み申し上げます。

代表 

現場主義

 喫茶葦島は創業からの数年間、店主である私が”バリスタ”として毎日珈琲をハンドドリップしておりました。それが今やバリスタスタッフも9名と増え、以前のように一日中私が自ら珈琲を淹れることはなくなりましたが、それでも毎日数時間は立つようにしています。

 それだけスタッフがいれば、オーナー自ら現場に立たなくても、完全に任せてしまえばもっと楽できるじゃないかと言われることもございます。

 でも、どんなに会社が大きくなっても、私が現場から完全に退くことはありません。よほど周囲からの反対がない限り、体力が続く限りは、仮に将来代表を退いたとしても、現場に立つ時間を確保していきたいと考えています。

 その理由は大きく三つございます。

 一つ目は、自分が理想とする経営理念として「現場主義」を掲げているからです。これは私の研究テーマでもある「永続する企業の条件」において重要なポイントの一つでもあります。

 二つ目は、技術の伝承のためには、指導者自らが継続的に現場に立つことが必須だと考えるからです。これは自分自身の技術に磨きをかけ続けることと、日々精進することによって得た技術向上の成果を後進の者に直接に適宜伝えやすい利点があります。

 三つ目は、全く個人的な理由ですみませんが、私自身が一人の”実践型珈琲オタク”であるからです。あえて実践と書くのも、自ら考案した焙煎方法とハンドドリップの手法を、日々現場で実際にお客様に提供することで、サービスを没入的に究めていくのが自分のライフワークと捉えているからです。

 喫茶店やカフェの現場はまさに生き物です。ご来店くださるお客様は老若男女さまざまですし、営業時間中には色々なことが起こります。かなり予見不可能なサービス業と言えるでしょう。そのような業務マニュアルだけでは対応しきれないことが多いのがこの仕事の難しさでありますし、逆に魅力的な面でもあります。

 経営は大局的な視点で仕事をみることが大切ですが、細部の仕事にも同時に目を行き届かせる必要があります。そのバランスをいかに維持していくのかが問題ですね。

 トップ自らが現場にいてこそわかることは多いので、そのための時間はできる限り確保したいと考えております。「細部にこそ神宿る」であり「現場にこそ神おわす」です。

 そんなわけで今日も数時間ですがカウンターに立ちます。

  店主

 

 

 

割烹珈琲

 先日のこと、ある常連のお客様に「葦島さんのスタイルって、割烹料理店みたいですね。目の前で大将が調理をしているのが見られる料理屋さんとか、寿司屋さんみたいで安心感があります」と言われ、なるほどと同意したと同時に開業前の準備期を思い出しました。

 確かに当店のように、店内どの場所からも見ることのできるカウンターで、豆の計量から始まり、豆をミルで挽き、ハンドドリップして提供する、その一連の流れ、所作を全てお見せできるスタイルはさながら割烹料理店を想起させるかもしれません。

 ただ、このスタイルに至った理由としては、割烹料理やお寿司の店をイメージしたからではなく、自分が客という立場で考えた時、珈琲を手仕事で淹れる全行程を見られたとしたら、楽しいだろうし安心するだろうと考えたからに過ぎません。

 私はこの店を立ち上げる前は、喫茶店はおろか飲食店に勤めた経験がほとんどありませんので、そもそも何がスタンダードスタイルなのかを知りませんでした。

 珈琲の焙煎も、抽出法も独特のスタイルと言われますが、関連する書籍を読み、長年自分自身が多くのお店を訪れて見聞きした経験をもとにゼロから構築したものです。

 珈琲以外については以前の職における経験で、事業を営むにあたり必要な衛生管理の知識や法的知識は十分得られていたので、喫茶店を立ち上げるにあたり、新たに経営面での知識はそれほど必要なかったのが幸いでした。

 思い起こせば開業準備期、一番大切に考えたことは「お客様が安心して来店できる喫茶店をとことん追求する」という方針でした。それをもとに店舗デザインや調理スタイルを固めていきました。

 その結果が今の喫茶葦島のスタイルですが、お客様から「割烹のような安心して訪れられる店」という意味でおっしゃって頂いたことは望外の喜びです。

 新ジャンルの珈琲店名称として「割烹珈琲」というのもいいなと思いました。

店主

私たちの社会的取り組みについて

生産活動を行っている我々のような企業は、できる限り地域社会や環境に配慮した取り組みを継続的に行っていく義務があると考えています。

環境に対する取り組み

・自家焙煎所葦島ではCO2ゼロの自然エネルギーを100% 使用。また、電気代の1%を社会貢献活動に寄付しています。(詳しくはこちら

・プラスチック素材のものを紙素材のものへ変更しました。
 ①喫茶葦島ではプラスチックストローを廃止し、紙ストローを使用しています。
 ②全店舗にてプラ製袋を紙袋に変更し、原則有料としました。

・自家焙煎所葦島では、珈琲豆用の保存容器をご持参頂くと1商品あたり30円値引きしております。

・トイレットペーパーとキッチンペーパーをリサイクルパルプ配合(FSC認証紙)のものに変更しました。

・フードロス削減のため、適量の原料を仕入れ、在庫管理を徹底しております。

・試飲用の紙コップを廃止し、繰り返し使えるガラス製カップを導入しました。

地域・社会に対する取り組み

・京都府、滋賀県の地元企業「山田牧場」の乳製品を使用したケーキ類を提供(喫茶葦島のみ)・販売(全店舗)。

・喫茶葦島では、京都府の自然の中で育てられた牛の生乳を使用した安心の成分無調整牛乳を提供。

働き方・雇用面での取り組み

・数名の女性従業員が出産・育児休暇を経て、⻑期勤務中(10年以上)

・研修制度の充実(新人教育、バリスタ昇格、店⻑候補)

伝統を大切にする取り組み

・伝統工芸とのコラボ。丹波の立杭焼作家と当社デザイナーによるオリジナルカップ&ソーサーを製作し販売中。

教育に対する取り組み

・珈琲セミナーの実施(2017年十字屋セミナー、2019年クックパッドスタジオセミナー実施、随時開業希望者に対する研修を実施。)


株式会社芦島は2021年11月「ソーシャル企業認証制度 S認証」を取得しました。

〈ソーシャル企業認証制度 S認証とは〉
社会課題の解決やESG経営(*)を目指す企業に対し、経営方針や事業内容、社会的インパクトなどを基準に、評価・認証を行う制度です。

ESG経営(*):「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の要素を考慮した経営のことを言います。

葦島という屋号の由来、についての追記

 以前の拙ブログにて、屋号である「葦島」の由来をお伝えしましたが、あえて書かなかった内容がございました。

 あえて書かなかったその理由は、つまびらかにすることについての、遠慮する気持ちがあったからなのですが、12周年を迎える今年は今後の展開について大きな変化がある年になりますので、決意表明の意味も込めてこの機会に公表しておこうと思います。

 葦島という言葉に日本という意味が込められていることは既に説明しましたが、その真の目的は、いずれ海外に出店することを見据えて、我々が日本の珈琲企業であり日本発祥の珈琲店であることを明確に表したかったからです。

 「丁寧な仕事」

 「品質主義」

 「自然並びに社会との調和」

 この三つは私どもが大切にしている企業理念です。

 

 そしてこれらは、日本古来から根付いている良き文化に通づるものでもあると考えていて、その良さを具体的に商品やサービスで世界へ発信していきたいという我々のミッションの土台になっています。

 いつの日か、世界中の都市に”心からくつろげる街中のオアシス”が広がっていけばいいな、と空想しながら頑張る日々です。

 店主拝

新年のご挨拶

明けましておめでとうございます。

昨年も新型コロナに翻弄された一年でありましたが、弊社におきましてはピンチをチャンスと捉えて攻めの姿勢を崩さずに過ごした一年となりました。

自社ECサイトを再構築したり、適宜新商品をラインナップに加えるなどしながら、既存のご贔屓様には今までよりもご利用して頂きやすい環境を整え、新規のお客様にもご期待に応えられるよう会社一丸となって取り組んで参りました。

ただ、まだまだ未熟なところも当然ございますので、今年は更に精進を重ねて参ります。

とりわけ昨年の後半、外部企業様より魅力的なご提案を頂くことがございました。新たに頂いた良いご縁に深く感謝申し上げるとともに、一層奮起努力する所存でございます。

今年は葦島にとって新たな挑戦が続くことになると思いますが、「中庸」という理念「街中のオアシス」「時間を紡ぐ珈琲」というコンセプトを大切にしながら、成長を目標に一歩一歩丁寧に歩んでいきたいと考えております。

どうぞ本年もよろしくお願い申し上げます。

代表 佐々木晨人

葦島という屋号の由来

喫茶葦島ならびに葦島珈琲の「葦島」という屋号についてですが、決して人の名前ではありません。

 日本神話において、日本の国土を指す豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)から「葦」という一文字を拝借し、日本は島国であることから、特に日本を言い換えた名称として、私が「葦島」と名付けました。

 豊葦原は神々の住む天上世界である高天原と対比して、人間の住む日本の国土を指すと考えられ、豊かに葦が生い茂る土地の意を表している、言わば日本の美称です。

 その美称に恥じないよう、しっかりとした足取りで、日々丁寧に営んで行きたい、そして悠久の歴史を有する我が国の古都京都で、日本の新たな伝統となるべき喫茶店・珈琲店を創り永続させたい、という想いを込めております。

 なお、喫茶葦島、葦島珈琲とも登録商標です。

店主拝

初開帳

 おそらく開業時以来になるかと思いますが、エントランス土間の障子を開けました。

 今まであえて閉じていたのにもそれなりの理由はありました。

 理由その1、設計意図を慮って、デザインを重視していたため

 理由その2、当時の空調能力が弱く、夏は暑く、冬は寒かったため

 理由その3、店主の気分

 都会のオアシスというコンセプトからも、外の喧騒を忘れさせるためには、あえて外の景色を見せない方が良いかと思っておりました。

 また、開業時の11年前においては周囲の喧騒状況がかなりのもので、決して眺めの良いものではありませんでしたが、現在は街並みも美しくなってまいりました。

 空調能力については、最近新型機にリニューアルしましたので、エントランスエリアの温度管理は改善されました。空調設計の重要さを勉強した次第です。

 つい先日も、長年通い続けて下さっている常連様が「決して開くことがなかった茶室の障子が開帳されたようで、いいですね」と仰られて、どうしてもっと早くこうしなかったのだろうと、ちょっとだけ悔やんだ次第です。

店主

朝宮煎茶という選択

当店の定番スイーツの一つ、山田牧場さんによる手作りの「朝宮煎茶チーズケーキ」について。

抹茶ではなく、煎茶という選択にまず心惹かれました。

しかも「朝宮煎茶」です。

朝宮と言えば、宇治と滋賀の県境に位置する日本最古の茶産地として有名です。

そこで収穫される朝宮煎茶は緑茶の最高峰と呼ばれています。

その煎茶が、山田牧場さんのノンホモ牛乳から作られた上質なクリームチーズと見事に合わさってます。

朝宮煎茶は苦みの中にほのかな甘みが感じられると評されているそうです。

繊細な日本の味です。

まさに珈琲の味でも同じことが見られます。

例えば、深煎りマンデリンのスパイシーな苦みの奥に潜む甘み。その繊細な甘さが多くの珈琲好きに愛されています。

当店の煎茶チーズケーキにも、そのような繊細な味わいを多くの方に愛されてもらいたいという想いが込められています。

店主

嬉しい誤算

 喫茶葦島を開業して11年が経ちましたところ、ふと現在のメニューを見ますと、珈琲の商品数については創業時からさほど変わってはいないのですが、スイーツ類は年々増え続けて、季節限定商品を含めますと今や20種類近くございます。

 とりわけチーズケーキは常時5種類あり、もはやチーズケーキ屋さんと思われても仕方がない状況です(笑)。

 事実、スイーツ目当てにご来店されるお客様は大変多く、自家焙煎珈琲の喫茶店を謳っている当店にとっては想定外の事ではありますが、これは私にとっては嬉しい誤算だと思っております。

 創業時より当店のスイーツに対する考え方は、「珈琲に合うスイーツを厳選して提供したい。珈琲とのペアリングを前提に、食べやすいものをできる限りシンプルな状態でお出しする」というものです。

 ですので、提供の仕方もかなりシンプルでして、ホイップクリームやジャムを添えたりしていませんし、温めたりも致しません。あくまで珈琲とともに楽しんで頂くためにそうしております。

 とは言え、決して適当に出しているわけではなく、スイーツごとに最良な状態で召し上がって頂くために拘っている部分もきちんとあります。

 例えば、定番の人気商品である「贅沢チーズケーキ」はあえて半解凍の状態で出していますが、その理由は徐々に常温に変化していく味を楽しんで頂きたいというものです。これも原材料がしっかりとしていて、丁寧に心を込めて作られたものであればこそですし、その素材の良さと作り手の腕を信頼しているからです。

 いずれにしましても珈琲そのものを味わうも良し、珈琲のお供を同時に味わうもまた良し、と考えております。

 これからも珈琲を豊かに愉しめる提案をできるように努めて参ります。

店主

喫茶葦島11周年を迎えて

 先日の5月15日に喫茶葦島は、創業11周年を迎えることが出来ました。

 今日まで無事に営んでこられたことを、お客様をはじめ全ての関係者の皆様には心より感謝申し上げます。

 さて今改めて創業時を振り返りますと、「都会の喧騒を忘れさせてくれる、オアシスのような喫茶店を京都につくりたい」という初心を思い出しておりますが、なぜゆえにそのような想いを抱いたかについては特に述べてきませんでした。

 そもそも「人はどういう時に穏やかな気持ちになるだろう。そのような時を過ごせる場所はどうあるべきだろうか」という課題のような想いから始まったのですが、そのような想いを抱いたのも、その当時の世の中と自分を取り巻く環境が本当にせわしなくて、ともすれば何のために生きているのかわからない状態で時間を浪費しているかのように、多忙な日々を送っていたからです。

 実のある丁寧な日々を過ごせたら、そのような日々を送る人がどんどん増えれば、世の中はもっと平穏で良い世界になっていくのではないか、と本気でそう考えていた頃でした。

 また、「ものづくりの心」とはなんだろうか?と常々考えてもおりましたので、毎日提供するサービスや商品を、いわば芸術や工芸作品のようだと言えるように、品質にも見栄えにも拘って、手を抜かないでやり遂げる。そういう仕事を為せていくことができれば、きっと誇りを持てるだろうとも思いました。

 穏やかな日々を目指して、誇り高く仕事を為していくこと、きっとそれはいつか平和につながると信じております。

 どうぞ今後とも、末永くよろしくお願い申し上げます。

店主

珈琲抽出方法について

 当店の珈琲抽出方法には、ハンドドリップを開業時より採用しております。

 開業前はサイフォン等も検討しましたが、最終的に現在のスタイルに至りました。

 そしてその判断は正しかったと思います。

 ハンドドリップを選んだ最大の理由としては、香味のコントロールを繊細に調整できるという点が挙げられます。

 美味しく珈琲を抽出するには、それぞれの珈琲豆に合った淹れ方を出来るかどうかにかかっていると思うのです。

 当店の淹れ方は、私が検証を重ねて確立したものですが、経験則において理にかなった方法ではないかと考えています。

 大まかにですが説明しますと、甘味・苦味・酸味のバランスが均等に近い豆はオーソドックスな淹れ方で、苦味の強い豆にはストロングな淹れ方で、フルーティな酸味が特徴の豆ならソフトな淹れ方で、といった具合に分けています。

 当店の方式はもともと私が確立したものですが、開業以来10年近く後進バリスタの指導を重ねるにつれて、言わば帰納法的な過程を経て発展させてまいりました。そのメソッドを体系的にまとめたものが「葦島珈琲 暗黙知研修」です。

 さて、当店のハンドドリップ法ですが、共通項として押さえなければならない点がいくつかあります。

 ・珈琲豆の計量は正確に

 ・挽き目は適切に

 ・ケトルの温度管理は注意深く

 ・蒸らしをきちんと行う

 ・蒸らしで落ちた雑味は捨てること

 ・抽出は丁寧に、豆の状態をきちんと確認しながら

 ・抽出時間は適切に

 

 いずれにしても、丁寧に心を込めて淹れることが肝要です。

 手仕事による珈琲を是非楽しんで頂きたく存じます。

 店主

珈琲とお菓子のペアリング一考察 〜婦人画報3月号に寄せて〜

 

 2月1日発売の婦人画報3月号に掲載された記事について、そのいきさつと内容を書かせていただきます。

 この度の婦人画報編集部からの依頼は「珈琲と合うお菓子とのペアリングを紹介してもらいたい」というものでした。

 このような依頼はほとんど今までなかったものですから、正直最初は驚きましたが、常々珈琲と相性の良いお菓子(スイーツ)を検証してはおりましたので、まあそれほど難しいことではないと思い、ご依頼を受けることに致しました。

 ただ「私が選ぶもので本当にいいのか?」という不安は多分にありましたので、たくさんの候補を挙げて提案するのではなく、「この珈琲豆には、このお菓子が最も相応しい」と言えるものに絞って、その理由も明確に示せるものを厳選して提案しようと思いました。

 以前にもこのブログで紹介したように、特定の珈琲豆に合うスイーツというものは確かにあります。あくまで大まかにではありますが、酸味の強い珈琲には、フルーティなスイーツ、例えばレモンケーキや果実の入ったスポンジケーキが合うと思いますし、一方苦味の強い珈琲には、ザッハトルテのような濃厚なものや生チョコレートなどが合うと思います。

 また、カステラのような洋菓子と和菓子の中間的なお菓子ですと、どちらのタイプの珈琲にも合いますね。

 そして和菓子については、非常に面白い取り合わせが数多くあります。

 まず、珈琲に合う和菓子として代表的なのが餡子を使用したものです。餡子というのは意外と珈琲、それも苦みの強い珈琲によく合います。大体甘くて食感のしっとりしたものは珈琲に合いますので、餡子などはそのまま当てはまるでしょう。京都の老舗のお茶菓子屋で選ぶ生菓子など、おすすめしたいものはたくさんあります。

 また、ボーロのような南蛮焼き菓子もいいですね。京都には蕎麦ぼうろという銘菓がありますが、これはビスコッティのような感覚で食せられ、珈琲との相性は良いと思います。

 羊羹も大変面白い珈琲のお供です。つるんとした食感が瑞々しく、いい塩梅の甘みのものをコクの強いストロング珈琲と合わせて頂きたいです。

 また、ニッキを使ったお菓子、言わずとしれた「生八ツ橋」ですが、こちらはマンデリンのような苦くてボディの強い珈琲に本当によく合います。奇しくも当店では「マンデリンとシナモンショコラ」のセットが多くのお客様に支持されております。

 さて、掲載されたペアリングですが、今回婦人画報へ提案させて頂いたのが「マンデリンSG」と、葵家やきもち本舗さんの「やきもち」です。

 この「やきもち」は良質な滋賀県江州米から作った餅で、 北海道産小豆で作る自家製つぶ餡を包んだ上賀茂名物です。白餅とよもぎの二種類ありますが、どちらも素朴さと上品さを兼ね備えたちょうどいい塩梅なお味です。

 そしてペアリング推薦の理由として、編集部には以下のようにお伝えしました。

「苦味の効いたコクのある珈琲と餡子は意外に合います。とりわけ葵家さんのやきもちは香ばしく、しっとりやわらかな食感で、ほんのり甘く薄いお餅と控えめな量の餡子は、ストロングなマンデリンとの相性が良いのです。サイズ感もちょうど良く、美味しく上品に食べられます。もしアイス珈琲となら、やきもちをほんの少し焼いて頂くのもおすすめです」

 これからも珈琲とお菓子のペアリングというテーマで、豊かで楽しい珈琲時間を提案できるよう、日々精進を重ねて参ります。

店主

理想の接客サービス

 喫茶店を営んでいて日々思うことがあります。

 果たしてうちの接客サービスは正しいのか?

 理想の接客サービスとはなんだろうか?

 喫茶店とは言いながらも自家焙煎の珈琲専門店であり、スイーツにも拘りを持っているつもりですので、提供している商品の味と品質にはそれなりに情熱を注いでおります。

 ただ、特に最近ですが、それだけでは多くのお客様に「選ばれる店」にはなれないのではないか?という危機感を強く持つようになりました。

 これも、コロナ禍がもたらしたわざわい故のものでもありますし、開業して10年が経ち、今思えば「ああすればもっと良かった」と思う要因のほとんどが、接客サービスについての失敗、後悔の念、心残りの記憶ばかりだからです。

 そもそも接客サービスと言いましても、「接客」と「サービス」は全く別の意味を持つ言葉です。

 すなわち、「接客」とは直接お客様に接してお客様と商品・店をつなぐ行為を言い、「サービス」とはお客様に対して心を配り、尽くすという行為を言います。

 これら二つの言葉を一つにしているのも、両方の行為が密接不可分に必要であるからだと思います。

 ところで、当店は開業当初より広告宣伝をほとんどして参りませんでした。理由として多額の広告費を支払う余裕がなかったこともありますが、もう一つには、実際に来店して頂いたお客様にまずは気に入って頂き、さらには紹介していただく事。つまり、お客様に自ら宣伝をして頂く戦略をとったからです。

 これは確かに時間のかかる迂遠な方法ではあります。ただ、私なりに考えたのは、そうやって自発的に「この店を勧めたい」と思われる接客サービスを心がけることが、自分自身や従業員、ひいては店を成長させる要因になるだろうということでした。

 その努力の結果として、たくさんの葦島ファンを作れたらどんなに嬉しいだろうと想像して希望に胸を膨らませたものでした。

 しかし冒頭申し上げた通り、開業以来この10年について思い返しますと、とても理想には程遠いものだと反省ばかりです。

 そこで、今改めて理想の接客サービスを考え直して、日々実践して行こうと思います。

 いくら提供するメニューが美味で、設えられた空間が素晴らしくても、接客が売らんかな主義だったり、サービスに心がこもっていなければ、それは私が目指す上質なサービスではありません。

 いつも私が唱えている「時間を紡ぐ珈琲」とは、提供する珈琲やスイーツの味だけでなく、心から寛げる空間と、「また訪れたい」「大切なあの人に紹介したい」と思われるような心のこもった接客サービス、これらが調和した結果、実現される寛ぎの時間を概念化した言葉です。

 そして大切なのは、言葉だけでなく行動。

 行動は言葉より雄弁なり、ですね。

 もちろん言葉がなければ正しく想いは伝わりませんが。

店主